設立趣意書

生活の安全・安心の一つの要素として、健全で持続可能な社会基盤の整備があり、その実現に向けて制度的にも公正かつ適正な建設技術の運用と展開のできる社会環境を確立する。

  • 戦後復興の名の下に公共インフラの整備を重ね、その結果として確実な進展がみられ、その充実ぶりは他国も目を見張るばかりであったことは、歴史が証明している。しかし1990年代初めのバブル崩壊後十数年を経過するうちに、何時しか社会環境は成熟期を迎え、急速な少子高齢化と共に一部の地域では人口減少も始まりつつある。したがって経済成長の伸びも減速し、国内の地域間格差拡大という形が現実味を帯びつつある。
  • さらに過去に投資した膨大な費用の付けにより、国・地方の財政は共に著しい借金体質が表面化し、国土保全の先行きは不透明な雲行きさえ窺える。 とはいえ住民にとって社会基盤である公共インフラは、生活そのものであるといっても過言ではなく、その整備は一日たりとも怠ることは許されず、生活の安全・安心の確保には建設に係わる関係者、特に当該技術者の意思と技量は欠かせないものであり、それらを適正に活用できる環境づくりが期待される。

地域住民、国・地方公共団体、企業等多様な組織や主体に対し、公共インフラの技術的、社会的、構造的な課題について、高い倫理観と豊富な経験を持つ技術者集団により改善・解決策の展開を図る。

  • 建設分野における安心・安全な公共インフラ整備に欠かせない三つの要素として、建設技術・人的資源・制度形態に注目し、それぞれの現状が今後の国土保全にマッチしたものかを整理・分析・評価すると共に、あるべき姿を見出し課題の解決・改善を自らの行動で世間に働きかけてゆくことが、建設産業に携わる(携わった)者の使命と考える。

公共インフラの構築・保全のために産・官・学の連携を図り、適切な建設技術情報を集積・整理し、その運用・適用手法を見出し合理的かつ有効な活用システムの確立を図る。

  • 近年の建設技術の発展は目を見張るほどであるが、一方過去に構築された公共インフラの建設技術も多種多様であり、すべてを把握することは不可能であるため、多方面に亘る連携が欠かせない。そこで個人を含む関係組織・団体や主体等を結ぶネットワークを構築し、行政担当者・学識経験者・専門技術者など各分野の方々が情報を共有できるシステムを構築し、合理的な技術の運用・活用が図れる環境づくりを希求する。

公共インフラの構築と保全に欠かせない建設技術の伝承と人的資源の開発を図る。

  • 戦後構築された公共インフラは膨大な数になり、それぞれの時代の生活環境や背景に順じた技術基準等に応じて構築されている。今後はこれらのインフラのみならず構築に携わった技術者も高齢化する。財政危機が叫ばれる中、新設インフラの整備へはかってのような予算配分がままならず、老朽化したインフラの健全性を維持しながらの国土保全となる。そのためには現在に至る建設技術の伝承が不可欠であるが、団塊の世代の技術者の大量退職と相俟って、より多くの懸念が窺える。そこでこれらの方々に再登板を願い、働き甲斐も合わせてご尽力いただき、今後を担う若手技術者の育成を図ってゆきたい。
  • また、インフラ使用者にとっては使い勝手に目が向けられていないとの感を持つ面も多々あり、研修・見学会やイベント企画による一般及び若年技術者向けの動機付け広報や啓発、経験豊かな専門技術者との討論の機会と場の提供、求められる技術課題の調査・研究等の協働活動を通じて社会への意識付けを展開したい。

建設に関わる情報を共有し、理に適った建設システムを確立したい。

  • かつては水路・道路、治山・治水、神社・社寺・仏閣の造営など身近な施設については、それぞれの地域で進んで労役・資材など出し合ってそれらを整えて行くという「普請」なる言葉が存在した。今日はそれが分業化され税金として納めて行政が公共事業として行っているため、生活者にはその認識は極めて薄い。また維持管理も含め整備すべき公共インフラの量は膨大になり、さらに分業化と細分化が助長され、当該技術者自身がどの部分に携わっているかさえ見失う現況も窺える有様である。そのためには建設に係わる人々がそれぞれの分野で集積している情報を、お互いが共有するというネットワーク化が解決への最短距離と考え、多くの人々が理解し納得できる建設システムを構築したい。
  • 具体例としては公共事業に対する説明責任を可能にする行政支援、効率的で透明性ある建設事業執行支援、関係各界・組織との連携・連帯、公共インフラ整備に関する計画・執行への第三者的評価などが想定されよう。

申請に至るまでの経緯

  • 設立者たちの多くは建設部門の技術士資格を有し、建設技術者として公共事業に従事してきた。
  • 借金財政に身を置くなか国土保全に危機感を抱く有志は、毎月1回一同が会して4年ほど前から多岐に亘る情報交換と課題検討を行ってきた。純粋な建設技術のみならず、建設行政や契約制度、建設産業の現状や将来像、公共インフラの整備や維持管理、海外工事との対比、資格制度や建設経営等々、話題は尽きることはない。しかしこれらを極限られた集まりで論議を重ねるだけでは空回りに過ぎないとの思いから、北部九州を主な拠点に西日本を活動範囲として外に向かって多くの情報を発信し、共感の得られる具体的成果を上げる活動に転化してゆくことを決し、NPOによる「西日本建設技術ネット」の設立を考えるに至った。
  • NPOの認証を申請するために、6月22日に発起人会および設立総会を開催して、定款や事業計画書などの関係事項を承認・議決した。その資料をもって申請する次第である。

平成20年7月4日
      特定非営利活動法人 西日本建設技術ネット       
設立代表者 齋藤 雄三

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